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がんばれ! 井上薫先生

2008-03-10
その他
 井上薫元裁判官の「司法のしゃべりすぎ」(新潮新書)と「狂った裁判官」(幻冬舎新書)を読んだ。
 ちなみに、「司法のしゃべりすぎ」は、現役判事の頃の著作であり、「狂った裁判官」はそこをクビになってからの著書である。クビになった原因は、前著の中で主張した蛇足判決理論を現実の裁判の中で適用した結果であった。
 蛇足判決理論とは、判決の理由に、主文とは関係ない余計なことは一切書くべきではない、というものだ。日本の裁判では、殆どの場合、判決理由に、主文とは直接関係ないことが長々と書かれている。しかし、これを書くためには多大な労力と、そのための調査に多くの時間が費やされる。それによって裁判が長期化してしまうことも多々あり、これは税金の無駄遣いではないか、というのが井上の主張である。
 井上は、東大の理学部出身という変わった経歴の持ち主で、蛇足判決理論も、要するに、裁判の記述方法を科学のそれに近づけようという発想から生まれたものではないか。そういえば、科学哲学に、エルンスト・マッハの思惟経済というのがあるが、蛇足判決理論はそれと非常によく似ている。
 正直言って、蛇足判決理論にはあまり賛成できない。やはり科学と法律はイコールではないし、長い判決の理由にも、被害者感情を慰藉したり、社会的影響に配慮したりという、それなりの意味があるのではないか。だからこそ、自然とこういった習慣が生まれ、長い間それが続いてきたのであろう。人間同士の争いの背後には、非合理的感情が渦巻いており、それゆえ、その紛争を解決する手段においても、合理性だけでわりきれない面があってもよいのではないだろうか。
 しかし、だからといって、井上のように自分の信念を貫こうとする変り種判事が、一人ぐらいいてもいいと思う。それが、「もっと長い理由を書け」という上司の指示に従わなかったことにより、事実上の解雇(判事再任は無理だという告知)を言い渡されるというのは、やはりおかしい。井上の言うようにそれは、憲法で保障されている裁判官の独立性を侵害するものであり、許されない行為だと思う。
 井上はよっぽど頭に来たと見え、自分をクビにした上司、横浜地方裁判所所長を実名(浅生重機)で記している。
 「狂った裁判官」は、その怒りが爆発している真っ最中に執筆されたものなので、なかなか興味深い。要するに、裁判官の独立性などと言うものは絵に描いた餅であり、判事という人種は人事評価ばかり気にしている小心翼翼たる連中である。彼らは、ずっとエリートコースを歩んできたので、低い評価を下されることに慣れていない。だから、有罪率99.9パーセントと言われる刑事裁判において、無罪判決を下すことに対して非常に臆病になりがちなのである。なぜなら、もし上級審でその判決が覆ったときには、無罪判決をした裁判官の評価が下がるからである。また、裁判所では、海外旅行が許されないといった驚くべきエピソードも紹介されている。
 こういった話は、先日、テレビで放映された映画「それでもボクはやってない」(周防正行監督)の内容ともぴったり一致する。
 以前、山口宏(弁護士)著作(恐らく「裁判の秘密」 宝島社)でも、裁判官に関する似たような話が紹介されていた。さらに判事は、大半の時間を書面の中で過ごしているため、リアルな経験に乏しく、そのため裁判官出身の作家がほとんどいないというのだ。唯一の例外が「家畜人ヤプー」の沼正三(高等裁判所判事)だという指摘もなかなか面白い。

 「それでもボクはやってない」、山口宏、井上らの発言は、ほぼ符合するので、私の裁判官に対する心証は、これでほぼ確定してしまった感がある。いずれにせよ、今まで、厚いベールの中で、皆目分からなかった人々の生態が白日の下にさらされることは小気味よく、また、透明性が重視される折から、このような著作は評価されて良いのではないか。

 しかし、「狂った裁判官」の中では、このようなブチ切れ告発だけはなく、大変重要な指摘も行われている。
 それは、今日の裁判において常識となっている、判例主義に対する根本的疑問である。裁判官は法令に従わなければならないが、判例に従わなければならないなどいうことは、どこにも書かれていない。そして、このような判例偏重の裁判のあり方が、前例踏襲の弊害をもたらし、それによって裁判官が自分の頭で考えなくなった、という指摘だ。これは、非常に傾聴に値する意見であり、ホントウに目の覚める思いがした。

 ブチ切れ告発本では、以前読んだ野田敬生の「お笑い公安調査庁」(現代書館)も面白かった。これらの著書には、多少下品な面もあるが、城山三郎も経済小説の重要な使命として、内部告発を挙げている。
 井上薫先生の今後の活躍に期待したい。


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